そもそも、一緒の布団で寝ようとしていたことが恐ろしい。

厚かましいだとか、恐れ多いだとか、もっと別のそういう対象ではないことを抜きにしても、年頃の男女であることはちがいない。

たとえ、拓磨がわたしを、わたしが拓磨を、そういう風に意識していなかったとしても。


「鳥籠は、窮屈だけど」


片手を肩から真横に伸ばして、拓磨はほんの少し首を擡げた。

あの妖艶な笑みを浮かべて、薄くくちびるを開く。


「こういう窮屈さはきらいじゃない」


隠されていた向こう側の手が伸びてきて、咄嗟に避けきれずに捕まる。

そのまま引き寄せられたら、受け身を取る間もなく顔から拓磨の腕枕に突っ伏した。


「っ、ごめん、歯が当たった」

「ははっ、いてえ」

「痕が残ったらどうしよう……」

「キスマークってやつだ」

「ちがう!」


思わず声を張り上げると、拓磨は顔を顰めて仰け反る。

冗談じゃない。形に残れば言い訳も通用しないのに。


日にあまり当たらないからか、細い血管まで透けて見えるほど白い肌に赤い印がぽつりと浮かぶ。


「朝になれば消えてるよ」

「絶対に?」

「それは保証しかねる」


赤い痕を指の腹でさする。

きえろ、きえろ、とおまじないをかけてみたところで、痕はよりくっきりと濃くなった。


「もう、触るな。寝よう」

「わたし、壁に凭れて眠るよ」

「どうして。仁美の布団なのに」

「ふたりで寝れるわけないでしょ」

「でも、腕枕をしてみたい」


拓磨にとってはただの願望だけれど、わたしからしてみれば歯の浮くような台詞をさらりと口にしてしまえる器量を褒めるべきか貶すべきか。

言葉に詰まる時点で、このあとわたしが折れることは決まったようなものだった。