「頑固だなあ」
「褒め言葉として受け取っておくね」
拓磨のやわい髪を指先に絡めながら、地上ではなく空を見上げた。
満月の、星のない夜。
神隠しにあっただの、妙ちきりんな囁きがきこえてきて、首を窓の外に伸ばす。
「仁美! 拓磨、見とらんね?」
「知らない。これ、きかれるの五回目だよ」
「あら、それはごめんねえ。もうこの辺りは探したって伝えるから、はよ寝なね」
「うん。ありがとう」
捜索隊は山に入るか川沿いに下っていくかするのだろう。
とりあえず家の周辺は静かになりそうだと胸を撫で下ろす。
煌々とした明かりが次第に遠ざかっていく。
辺りに夜の静寂が訪れたころ、窓を閉め切って布団に雪崩る。
「うぎっ」
「え? うきっ?」
「猿じゃねえよ。重い、どいてくれ」
「ちょっと。女の子にさあ……重いとかいわないの」
良くも悪くも、冗談にきこえないからタチが悪い。
拓磨を下敷きにするように寝そべったことは謝るけれど。
「町会長の家ってどんな感じ?」
「おれの家、じゃないんだな」
「拓磨の本意でそこにいるように見えないから」
「本意もなにも、自分の家なのに」
隣り合わせに寝そべり、話を続けようとしたところで、背中のかたい床の感触にはたと布団をまさぐる。
床の感触が伝わるほど薄っぺらい煎餅布団に寝かせて、体を痛めやしないだろうかと気が気でなくなる。
せめて腰と首の辺りは、と敷布団の下に適当な衣服を伸ばして詰めようとすると、手首を拓磨に握られた。
「何してるんだよ。皺になるだろ」
「いや、ほら……皺、伸ばそうと思って」
「嘘つけよ」
「……拓磨、こういう布団で寝ることないでしょ」
床に直敷きの布団になんて。寝起きの心配よりも、先ず寝付けるのかもわからない。
ぼそぼそと呟くと、拓磨はわざとらしく息をついてわたしの手を解放した。
詰めかけた衣服を取り出して放ると、拓磨はさっさと横になってしまう。