ハンカチの隙間から覗く瞳は、あの日拓磨を見つけたときのように揺れていて。
しるべはなくとも、連れ立つ手はここにあると示したくて、手をぎゅっと握る。
「……ありがとう、仁美」
あえて、よかった。
耳元で囁かれた一言を、そっくりそのまま返す。
あの日、拓磨を見つけられてよかった。
目には見えない何かを噛み砕いた、あの夜があってよかった。
あべこべになってしまったけれど、嘘は嘘として、真実は真実として、あるべき形に戻せたことも。
「遠くに行こうよ、拓磨」
もう一度、問うた。
拓磨は頷くことはなかったけれど、かわりにわたしの手を握って立ち上がる。
笑う横顔、時々、翳る目元に触れたくて。
握られた手に力を込めて、反対方向へと駆け出した。
【君を、噛み砕いた夜。】