「ごめん、拓磨」

「いいよ。……なにが?」


泣いている拓磨がわたしの肩を摩っていて、わたしは膝の上で拳を握りしめている。

ちぐはぐで、おかしくて。

けれど、埋め合えるのならそれでいいと思えるほど。


「わたし、さっき拓磨のお父さんにあの日のことぜんぶ話しちゃった」

「……は!? え、だ、抱かれ」

「それは話してない!」


汗ばんだ手を開き、勢い付けて拓磨の口に押し当てる。

白昼堂々と言い放たれていい台詞じゃない。

はっと周りを見渡して、人っ子一人見当たらないのが幸いだった。


「拓磨が家にいたことと、散々色んな人にきかれたのにいないって嘘ついて、捜索域広げたこと」

「うわあ……最悪。それおれ、帰ったらまた説教だ」

「それくらいは甘んじて受け入れてほしいといま、いまさっき、思い直した」

「どうするよ、外出禁止になったら。いっとくけど、父さんは何事にも厳しい。嫁入り前の女の子に手出したってしれた、らっ! いだっ!」


べち、と頬を叩くと、拓磨は大袈裟に痛がって地面に転げた。

頬を押さえて痛がっているくせに、なぜか笑っていて、涙の乾いた目元は赤く腫れている。

川にハンカチを浸して目元に押し当ててやると、気持ちよさそうに鼻歌を歌い始めた。


「拓磨」

「うん」

「わたしさ、お母さん達に連絡取ってみる」

「そっか。ずっとじいちゃんばあちゃんと暮らしてるもんな」

「だから、拓磨もお母さんと弟にコンタクト取ってみて」


拓磨が笑って話すほど、きっと家のことは単純じゃないし、簡単に清算できやしないのだと思う。

けれど、拓磨がこの先をどう描いていたとしても、この町以外の場所にも行けるのだと知っていてほしい。