ひんやりと全身から血の気が引いていく。
冷たくなった手を擦り合わせながら、拓磨の被るブランケットに潜り込む。
「拓磨はこれからどうなるの?」
「どうって?」
拓磨のお腹辺りに頭を横たえて、くぐもった声を吐き出す。
ちらっとブランケットを捲られて光の射す方に目をやると、拓磨がじいっとわたしを見つめていた。
「家に帰ったあとのこと」
「ん?⠀そりゃあ、まず叱られて」
「そうじゃなくて。もっと先の話」
途中で遮ると、拓磨はちょっと居心地の悪そうな顔をした。
布団の中で身動ぎ、黒目が左右に揺れる。
「家督、っていうほど仰々しくはないけど、名目上は町会長を継ぐ。こんな片田舎の町会長如きで鼻が高くなるでもないから、父さんに着いて回って近隣との付き合いのノウハウを一から叩き込まれる、予定。一応な」
こういうの、なんていうんだっけ。
帝王学、というやつなのだろうか。
わたしには縁が無さすぎて名前しか知らない未知の世界。
隣町とはもうずっと、主に水利権で争っている。
今は平衡状態を保っているけれど、それこそ町会長が替わるタイミングなんて絶好の機会と呼べるのかもしれない。
町の難しいことは役員に任せきり。
若い世代、まして子どもには関係がないと無関心でいたのに、これからそれを継ぐべき人間として育てられた人が、目の前にいる。
「なんだよ、その顔。深窓のお姫さまじゃあるまいし、教育も名前ばかりじゃないんだからな」
「あ……ちがう。ぜんぜん、馬鹿にしてるとかじゃないんだよ」
つい呆けていたのは認める。
そんなにひどい顔をしていたのかと頬を引き締める。
「籠絡するように仕向けておいて、足掻く術を教える。うちの方針の真ん中にあるのは、これだけなんだよ」
「帝王学、ってやつは?」
「え、なにそれ」
きき返されても、こちらは名前しか知らない。
誤魔化すように首を傾げると、拓磨もこてんと首を傾けた。