「女王こそが諸悪の根源!」
「あの悪魔のような女王を断罪せよ!」
「そうだ、女王を断罪しろ!」
「断罪だ!」
「断罪!」
「断罪!」
「断罪!」
どうして、こうなったのかしら。
行き過ぎた絶望の中で泣きわめく体力も無くし、女王アリスタはされるがままに処刑台に首を乗せた。
ひんやりとした金属も、ささくれて首にささる木の棘も気にならないほどに心は憔悴し麻痺している。熱狂し、女王の断罪を叫ぶ、愛していた民の声も、まるで他人事の世間話のように耳に入ってこない。
この国を愛していた。
この国の民を愛していた。
女王制のこの国で、陰謀渦巻くこの王宮で、一人立ち、言葉を、ペンを、剣を振るいながらこの国の発展と未来のために尽力してきたのだ。
それもこれもこの国を愛していたから、自分以上にこの国を愛する王族などいないとわかっていたから、国民に幸せになってほしかったから、自分が死んだあとも、自分の名が残らなくても、この国に生まれ生きることを国民に誇りだと、幸せだと思ってほしかったから。
尽力してきた、はずだったのに。
なのにどうして私わたくしの首は今、血生臭い断頭台に横たえられているのかしら。
王城前の大広場は本来、収穫祭や騎士たちの凱旋のために光をともし、店を広げ、身分など関係なくこの国の安寧を寿ぐためにアリスタが王女時代に少々ばかりのわがままを通して作ったものだ。
薄青と白の石畳の美しい広場はアリスタの思惑通り、何度も何度も素晴らしい装いでこの国の輝かしい未来を示してきた。歌い踊り、酒を飲み、良きことを幾度も祝ったこの場所に自分の頭が落ちること、血で石畳が汚れること、自分の断罪をしたと歴史に刻まれること。それがどうしようもなく悲しかった。
「………か………い……陛下!女王陛下!!」
ぼんやりと声がする。聞き慣れた声。国王より、子供たちより、国の重鎮たちより繰り返し聞いた声。
共に育ち、背中を預け戦っていた忠臣の声が。来世では結ばれたいと密かに願ったあの男の……
「離せ、離せお前ら!裏切り者め、恩知らずめ、女王の国で生きてきたくせにその女王を殺そうというのか!」
「ルネ……!ルネだめよ!」
「アリスタァァァッ!」
ザシュッ、という鈍い音とともに視界の先で鮮血が飛沫を上げる。観衆の雄たけび、愛した人間の絶叫。尽き果てたはずの絶望と憎悪が大きな音を立ててその首をもたげた。
自分を庇ったばっかりに、最後まで忠義を尽くしたばかりに。どうして、どうしてどうしてどうして。騎士として正しくあっただけの彼がどうして見せしめのように殺されなくてはいけなかったのか。誉れ高き最期すら遂げてはならないのか、自分は、こんなもののために今まで女王として生きてきたわけではない。
「お、のれ……おのれ、おのれおのれおのれえええぇっ!貴様ら、許さぬ、何度貴様らが生まれ変わっても呪ってやる!この国を呪いお前らを呪い未来永劫苦しめてやる!災いを、この国に晴れることなき永遠の暗雲を!貴様らに!貴様らに、死より果て無い絶望を目にもの見せてやる!ああああああああっ!」
この国のすべてを慈しみ、憎まれてもなおそれさえ愛し、包み込み、だれよりもこの国のために心を砕いてきた女王。この国が千年王国たる基盤を作り上げた美しく聡明な女王。その最期の言葉は、この世界の誰よりもこの国を恨み、憎み、呪ったものであった。