目をつぶってからしばらくして、僕の右耳に忙しなく鳴き続けるセミの声と、小鳥のさえずりが聞こえてきた。そっと瞼を持ち上げれば、目の前にあらわれたのは歴史を感じさせる大きな屋敷、ぐるりと踵を返してみれば屋敷は森の中にあるようで、深緑の木々に包まれていた。

僕は再び、視線を大きな屋敷へと移す。

「ここに……」


士郎(シロー)がいるのだろうか?


表札を見てみれば、"生鷹(オイタカ)"と書かれていた。どうやらここで合っているようだ。読めないはずの字がさらりと読めてしまったことに驚いたものの、士郎(シロー)に会うことの方がより重要であったので、気にしないようにした。

拳をつくりドアを叩こうとしたその時、黄色いものが視界の端に入ってきた。それが気になって、誘われるように歩みを進めてゆけば、そこにはひまわり畑があった。


───なんて綺麗なんだろう………。


もっと近くで見たいとひまわり畑に近づく。

「セント?」

聞き慣れないしわがれた男の声が聞こえて、僕はそちらに顔を向けた。

「本当に、セントな、のかい?」

僕の名を呼びそこにいたのは、白髪混じりの小柄な老人だった。

「きみがハンスだった士郎(シロー)なのか?」

「あぁ、セント!」

瞳を大きく見開き、きらきらと輝かせながらこちらへ走って来て、士郎(シロー)は僕を強く抱きしめ背中に手をまわした。鼻を(すす)り肩を上下させ声を震わせる姿を見て、ようやく会うことができたのだと僕は実感しながら士郎(シロー)を抱きしめ返すと、つられて僕も声を出して泣いてしまった。


こうして僕は、親友との再会を果たすことが出来たのだった。