ギィ、ギィ、と黒い鎖に吊るされた、木製の古ぼけた看板が揺れている。
看板には『白薔薇』と表記されており、文字の横には薔薇の彫刻がしてある。
趣のあると……言えなくは、ない。
けれどもこの店の店主であるカレン――アタシはこの看板を変えるつもりは一切なく、誇りさえ抱いている。
この街の、この店がアタシの誇れるものだからだ。

風が強く、厚い雲の流れるのが速い。
扉の札をOPENにして風に誘われるように空を見上げると、ちょうど声をかけられた。

「よう、カレン。今日は雪が降るぞ」
「ああ、降りそうだなと思ってたんだ。レイが言うなら間違いないね」

にんまりと笑う彼は隣に住んでいる大工の棟梁でレイといった。
店の常連でもある彼は店が開くが早いかアタシと共に入ってくる。

「ちょっと飲みに来るには早いんじゃないかい?」
「かたいこと言うなよ。今日は母ちゃんに子ども等も後から来るんだ」
「まぁいいけどね、アタシは。踊りも見るのかい?それならテーブルを移動しなきゃだね」
「そうそう。だから手伝いに来たんだよ」

広くもない店内にはいくつかのテーブルがあるが、家族で座れるような大きなテーブルは無く、レイの家族5人分の席を確保するにはセッティングをいじる必要がある。
それを見越して来てくれたらしい。

飲み屋に子どもを連れてくるなんて、なんて無粋なことは言わない。
この街の住人はみんな家族みたいなもんだ。
誰もがどの家の子供か知っている。
もちろん、飲み屋が嫌いだという子供も、子供を受け入れない店もあるだろう。
だけどアタシの店は至って健全だし、従業員のジェイムズが作るご飯は美味しい。
主婦にだってたまには息抜きが必要だとくれば、飲み屋でなくて定食屋として使ってくれるのだって構わない。