「――わ。時環」
「ん……」
「足下にGがいる」
黒くてカサカサと動き、希に羽をばたつかせる生き物。アレが足の上を道に選んだときの感覚は消えずに時環の足に残っている。
「ギャアアァァァァッ!!!!」
「冗談だ」
「驚かすな! 心臓に悪いわ!!」
目覚ましの効果は絶大で、時環の胸はドクドクと鼓動を打つ。幸哉は気に止めず指をさした。
「見てみ」
見慣れた風景を視界にいれた時環は両目を見開いた。毎日通っているその場所は今が昼休みのようで、廊下も生徒達の会話が賑わっている。
ある生徒達は食事を楽しみ、ある生徒達は食事を終えて机の上でコミュニケーションを交わしている。また、ある生徒達は席を立って廊下に出て目的の場所へと向かう。机の上で静かに勉強を頑張る姿や、廊下で先生に質問をする姿がいくつも見える。
普遍的なその光景を前にしたとき、隣に福沢幸哉という存在がいなければ、先ほどまでが夢で今が現実だと結論づけた。
どちらも現実だ。その直前にあった出来事も。
ここが時環の通う学校だということは紛れもない事実。黒板の日付からここが過去だと言うことも事実で、ここにいることも現実。
現実味が沸かない。