「物置の倉庫にしているクローゼットと、人が作った時計を一緒にするなよ。あの二人、息子からの初のプレゼントに勿体なくて手が出せないのか」
「価格のせいじゃない?」
旅行キの価格はいずれも高く、裕福な家庭でもお金を湯水のように使う贅沢者でない限り迂闊に手を出せない代物だ。
時環は愛情を疑ってはいないが自己評価が低く、使えない理由が自分にあるとは考えない。
「あの頃は子供で時計の価値が分からなかったけど、人生に干渉できるアイテムがそう易々と手に入るものじゃないってことくらい、今となっては分かるよ。幸哉さんと斗夢さんが親切で俺に旅行祈を譲ってくれたこともね」
知らない方が幸せだと感じるだろう価格を思うと、旅行祈を使うのは戸惑って当然。そう考えられるほどには成長していた。
中学の頃の時環の手伝いと、報酬の旅行祈が比例していない事実を否定したところで時環は納得しない。なら、そんな出来事は些細なこと。そう伝える笑みを幸哉は向けた。
「これは素人が作ったやつだから、気にする必要は無い」
親指で竜頭を押して、幸哉は懐中時計を開けた。斗夢が作った旅行キとは違い、幸哉が作ったものは二つ折り。
「新人の美容師がカットモデルを頼むのと同じだ。素人が作った旅行祈のテストに協力してくれないか?」
旅行機と同じ印象を旅行祈に抱いて欲しくなかった過去は、時環が旅行祈を求めてくれたあの日に塗り替えられた。時環が旅行祈を知らないと知った今、宿るのは知って欲しいという想いだ。