時計店に着いた時環は、店先に出ている看板に日替わりメニューではなく文章が記されているのが目ついた。ただ休みであるならまだしも、休業の上には「しばらく」の四文字がついている。「しばらく休業します。時計店は通常通り営業してます」。まだまだ若い年齢の幸哉に何があったのだろう。

 直接聞けば分かる。ドアハンドルを握っていつも通りに足を踏み入れた。


「こんにちはー――幸哉さん!?」

「ああ、時環くん。いらっしゃい」


 斗夢がいつも通りの穏やかな笑顔で出迎えてくれたが、時環はカウンターに座っている幸哉を見て、とても同じように笑うことは出来なかった。

 頭に包帯を巻いて左腕に至っては吊っている。直ぐ近くには松葉杖が立てかけられており、直接聞かずとも休業の理由など一目瞭然だ。


「どうしたの、その怪我……」


 時環と目を合わせていた幸哉は、視線の先を反らして素っ気ない態度をとる。


「なんでもない、ちょっと事故っただけだ」

「ちょっとのレベルじゃないと思うけど」


 不機嫌な理由は怪我のせいか、全く別のことが原因なのか、その原因が時環なのか。

 反らしたかと思えば幸哉は再び時環を見た。まばたき一つせず見つめられ、時環は居心地が悪く戸惑いも隠せない。


「……いいんだ。お前の身の方が大事だから。ってか、マジで危ないことすんな! 頼むから理解しろよっ!」


 無事な片手で肩を掴まれ、必死な形相で懇願された。


「よく分からないけど幸哉さん、人に言うならまず、自分が心配をかけさせるようなことをするなよな」


 怪我については聞いても何も語ってくれず、純粋に心配する。


 このような気持ちになりたくないから、先日の幸哉もあれだけ怒ったのだと分かる。今怒られていることについては、どれだけ考えても分かりそうにない。