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 高さは結構あったが、その分上までの距離は短かった。力が無くなる前に火事場の底力で一気に引き上げられる。

 日光で温められた堅い地面に膝と足を付け、時環はようやく力を抜くことが出来た。生きていることを実感しても、身体は少し震えている。混み上がる疲労は心身の負担であろうが、安堵がじっくりと塗り替えているのも感じた。


「死ぬかと思った……死にはしないか」

「頭から落ちていたら多分死んでるよ。生きて全身骨折の大怪我だ。怪我は?」

「大丈夫。ちょっと擦り向いたくらい――イテッ」


 幸哉の場合は身体的疲労が時環よりも大きい筈だというのに、そんな素振りを殆ど見せない。大きく息を吐いて少し腰を伸ばしたかと思えば、ポケットからスプレーのようなものを取り出して時環の手に振りかけた。


「消毒液」

「なんでそんな物持ち歩いてんの!? つかアンタ、俺の後をつけてきただろ」


 唐突に襲いかかる痛みに時環が堪えていると、次は絆創膏を取り出した。傷口を押さえる時環の手をどかし、淡々と処置を施す。


「つけてない」

「じゃあなんでここにいんの」


 旅行キの手入れが溜まっていたから任せると言っていたのに、幸哉がここにいるのは矛盾している。


「追いかけてきたんだ」

「だからどうして――」