包装紙で包まれた四角いそれは上着の内ポケットに入る大きさで、複数個あるわけでもなくたったの一つだけ。

 配達と聞いて蕎麦やピザの出前のようにいくつもの家を回るという時環の想像は見当違いだった。鞄を持ち歩く必要がなく、届け先の住所を暗記してしまえば両手には何もない。


 手放せば一瞬で風に攫われてしまう一枚の紙切れと、大人が子供に渡す保険の命綱を、時環の片手と片ポケットを塞ぐ唯一の持ち物として幸哉は差し出した。


「これが地図で、ほい財布。迷子になったら電話でもしてこい。店の番号と住所を書いたメモは財布の中に入れてるから、タクシー拾えるならそれで帰ってきてもいい。安全第一にな」

「冗談じゃなくて本気で俺のこと、七歳だと思ってるだろ」

「いってらっしゃい」

「いってきます」


 不満は華麗にかわされた。

 天気予報は外れずに快晴の空が広がっている。小川の横を真っ直ぐに突き進んだ先に橋があり、その橋を渡って一直線に進んだ先が目的地だ。所用時間は徒歩十分ほどといったところだろう。


 時環は歩きながら地図を見て必要ないと判断すると、小さく折り畳んでズボンのポケットに入れた。地図は本当に迷子の保険に渡されただけだと分かる簡単な道のりだ。

 よほどの方向音痴でなければ迷うことはない。川で元気よく遊んでいる子供の声を聞きながら、番地を確認するために荷物の時計を取り出した。少し前の幸哉とのやり取りを思い出す。