斗夢は適当な判断で時環に旅行記を渡したのではなく、時環の事情を察した上で旅行記が良いと判断した。父親の目と善良な心を幸哉は誰よりも信頼している。
「最後に旅行祈だが……お前が言った通り、過去を見に行くことが出来る時計。見に行くだけで、未来を変えるチャンスは与えてくれない。他の二つとは違って特殊な要素があるんだが、これはまた今度、機会があるときに話すよ」
「なんで?」
あの日、時環の命を救ってくれた旅行記に対して脅かす危険を秘めていた旅行機。
時環が旅行機に対してあまり良い印象を抱けずにいるのを察して、幸哉は複雑な感情を抱いていた。旅行祈まで同じように悪印象を持たれたくはない。旅行祈は未来を変えられないから、あの日の時計が旅行祈だったらと時環が想像すれば互いに苦しいだけだ。
「そろそろ昼食を作らなきゃいけないからだ。配達のこと、忘れてるだろ」
「忘れてねーし」
「よろしい」
幸哉は箱の蓋を閉じて調理に取りかかった。元々下準備は終えていて、あとは焼くだけの過程だ。殆ど調理とは言えない。今から時間を費やすのはデザートの仕上げというところ。