続けてその手を旅行機を示した色、赤い箱に移動させる。
「対してこの旅行機は、過去をやり直し、未来を変えるチャンスを与えてくれる。旅行記は過去の時間に戻るだけだが、この旅行機は過去の時間と過去の自分に戻る」
生きられない未来、生き永らえても刻間夫婦に引き取られない未来。この福沢時計店に時環が二度目を訪れる現実も、無かったかもしれない。
「怖がらせて悪い。大丈夫だよ、誰にどんな旅行キが合っているのか見極めるのも俺達の仕事だ。父さんは絶対に間違えない。そもそももう終わったことなんだから、そんな不安そうな顔をするな」
「しっ、してない!」
「懐かしいな、お前のその意地っ張り。初めてここに来たときを思い出す」
嘘をつけと幸哉が発し、それを命令形に受け取ってしまった時環を懐かしく思う。年を重ねても時環は時環だ。
「一体何年前の話をしてるんだよ……」
本人は覚えていない。自分が意地を張っていることも無自覚だ。
斗夢の息子である幸哉は時環のような心配を欠片も感じておらず、この先も変わりない。もしもの可能性は悪意がなければ訪れないものだと断言出来る。