時環が下に降りると、日中の日差しが店内に差し込んでいた。テスト勉強の際に利用した窓際にある二人席。カーテンを半分だけ閉めて、日光を遮断した机の上で幸哉が時計の修理に集中している。親しみのある笑顔を浮かべる彼があまり見せない真剣な表情だ。降りてきた時環に気付いている様子もない。
「それって旅行キ?」
時環が声をかけることで、ようやく幸哉は時計との世界から静かに戻った。驚かせて手元を狂わせる事態にはならなかった。
「ああ、終わったのか。そうだよ」
時計を箱の中に戻して、手袋を着けたまま我が子にするように大切そうに撫でる。
「左から順に、旅行機、旅行記、旅行祈だ」
「全部旅行キじゃん」
「字が違うんだよ。赤い箱のは機械の「機」、緑の箱のは日記の「記」、青い箱のは祈ると書いて「祈」と読む。見た目は似ているが全て効果は違う。そういえば時環は、この三つの違いについてはまだ知らなかったな」
日光が眩しい幸哉の前の席に時環は座った。勉強のときとは互いに逆の席だ。時環もカーテンを閉めようかと考えたが、クーラーが直撃する寒さに反して暖かさが心地よく、そのままにした。