階段から覗き込んで発せられたその声は時環の耳に届いたが、返す言葉が相手に届くかどうかは疑わしい。

 時環は不満げな顔を浮かべながら、掃除機の電源ボタンを押して音を鳴り止ませた。


「幸哉さんさー、俺のこと何歳だと思ってる?」

「七歳みたいな十三歳」

「立派な十三歳だよ! お使いくらいしたことあるわ!」


 初めてのお使いはまだ両親が里親であった八歳の頃、夕飯の食材であるキャベツの買い物だ。間違えてレタスを買って帰ってしまったのは今でも時環にとって少し恥ずかしい思い出であるため、おそらく笑うであろう幸哉には知られたくない。


「悪い悪い、冗談だ。一応聞いてみただけ」

「本当ー?」

「本当本当」


 信憑性が欠片も感じられない棒読みであったが、頑なに幸哉は否定しないだろう。

 遊び心で時環をからかっても、上がってきた目的は忘れていない。雑談だけをして降りては意味が無いと、話を切り替える。


「実は今日中に時計の配達一件頼まれているんだが、旅行キの手入れが溜まっていてな。父さんは相変わらず時計の制作に集中しているし、お前さえよければ俺の代わりに配達してきてくれないか? 勿論無理にとは言わないが」

「いいよ。記載された住所に時間通り届ければいいんだろう? 休みの日に外に籠もっているのもなんだし、気分転換がてら行ってくるよ。――あっ、仕事に気分転換とか言っちゃ駄目か……」