刻間の実家は裕福だが、裕福というのは無限に使えるお金があるわけではない。限りのある金銭をどこに使うか、きちんと見極めているが故に手にした幸福だ。もちろん年収は福沢家よりもずっと多いだろうが。
「そう。俺の存在が二人を我慢させているようで、何か申し訳なくてさ。別に二人とも、俺のことを邪魔に思っているわけじゃないってことは分かってる。そんな風には微塵も感じないくらい大事にしてくれているし。ただ俺の個人的な罪悪感というか、旅行祈をプレゼントしてあげたいなって……なに?」
照れ隠しからずっと視線をずらしていた時環が前を向いたとき、そこには輝かしい目で時環を見る福沢親子の姿があった。和菓子と抹茶を楽しむお茶の間の空間が似合いそうな穏やかな表情を浮かべ、これ以上ないくらいに緩みだす。
「青春だねー」
「だなー。うちの子可愛い」
「生徒だろ! 頭を撫でるな!」
幼稚園児から小学校低学年の子供にするような扱いに、時環は苛立ちを隠せない。言って後悔をしたと頭を抱えている間も幸哉は気にせず撫で続けた。
「よーしよし。でもなー時環、お前の気持ちはめちゃくちゃ喜ばれること間違いなしなんだけど、残念ながら旅行祈は数ヶ月や一年、二年のバイトでは――」
時計の針の音を上回るほどの、拳骨の音がゴツンと響き渡る。