「そういやそうだな。刻間さんは何でもかんでも買い与えることはしなさそうな人だけど、お前はその辺遠慮してそうだし、別におねだりくらい……」


 先ほどまで牙を向いていた時環が、その口を閉じて顔を反らした。ほんのりと赤く染まっていて、恥ずかしげな心情を悟られてしまったことを自身も実感し、誤魔化しきれないと観念する。


「実は……さ、先月に父さんと母さんの結婚記念日があったんだ」


 そういえば、と幸哉は過去を思い起こした。午後のおやつ時にやってきた刻間からそんな話を聞いたのである。確か刻間はお祝いとして――


「三人で旅行祈でも見ようかって、父さんが言ってた。自分達の思い出を俺にも見せたいって。俺も興味あったし、見てみたかったけど口には出せなくて見守ってたら、母さんが……」

「お前の学費でこれからもっとお金が必要になるからやめておこうって、ただの外食で済ませたんだよな。刻間さんから断られたって聞いたよ」


 家族の同意を求めずに、事前に勝手な判断で買ってしまっていれば奥さんも断らずに受け取っただろうに、それを聞いたときの幸哉はチャンス・ロスをしたと内心舌を噛みしめた。無論、それが易々と出来ないことは分かる。旅行祈は奇跡の時計の中では最も財布に優しい時計だが、比較せずに価格だけを見るなら欠片も財布に優しくはない。