流れが自分にとって好ましくない方向へと向かい始め、幸哉は大きく手を叩いて遮断した。進行方向を替えて再出発だ。
「さっ、休憩は終わり! 宿題は今日中で終わらせるぞ!」
「だから無理だって! 数学以外に国語と英語もあるってのに!」
「気合いで終わらせろ! バイトをしようと思う体力があるなら大丈夫だ」
「バイト? 時環くん、バイトがしたいのかい?」
あまり知られたくなかった相手に知られてしまい、時環の顔に焦りが生じる。さながら説教をされると感じ取った子供のようだ。
「や、ちょっと興味本位といいますか」
人生の先輩を強く感じるのか、時環は斗夢には強く出られない。何かを言われたら言い返せる自信がなかった。
自分に対する対応とあからさまに違う時環の姿に、幸哉は不服そうにしてみせる。冗談を交えた嫌みが自然と口から出てしまう。
「配達に興味があるなら毎朝俺に卵を配達してくれていいぞ。卵代だけ払う」
良く言えばお手伝い。悪く言えば無給の労働。
「タダ働きは御免だね」
お駄賃くらい頂戴よ。
配達代を払ったら働かせているのと同じだろ。
目の前の小さな口論を聞き流し、斗夢は顎に手を当てて考え込む。彼にとって二人の声は、コミュニケーションを取り合っているヒヨコの鳴き声と同じようなもの。さほど気に留めない可愛いサウンドトラックだ。
「ふむ、なんで刻環くんはバイトがしたいんだ? 欲しいものがあるなら相談してみればいいじゃないか」
ヒヨコ達の声がぴたりと止んだ。