いくつもの時計の音が流れている一階に、二階から近付く低いリズムが鳴らされた。降りてきたこの店の店主は、向かい合って対話を楽しむ二人を見て温かな笑みを浮かべる。


「頑張ってるかい?」

「父さん」

「斗夢さん! すみません、起こしちゃいました?」


 昨夜も遅くまで時計の作業をしていた斗夢は、相変わらず昼と夜が逆転している。つい先ほどまでが彼の睡眠時間だ。まともな生活リズムに戻そうと、日々注意をしている幸哉の努力は報われない。


「いや、一階の声は殆ど聞こえてこないから気にしなくて大丈夫だよ。人の声よりも時計の針の音の方がずっと大きいからね」

「二階も一階と同じくらい時計が働いているからな。叫んでようやく普通の会話と同じくらいに聞こえるか、それよりも小さいくらいだろう」

「メンテナンスと電気代、大変そう……」


 懐中時計や腕時計は電池で動いているが、振り子時計や鳩時計、その他大型家具に分類される時計の全ては電気の動力の元で動いている。これらを全て休ませずに働かせているのも生活費を苦しめる原因だろう。自覚している分、改めて他人から突きつけられた事実は幸哉の心に深く突き刺さった。


「時々は休ませているよ」


 斗夢の言う時々は本当に時々だ。週休一日ではなく月休一日。