今年の蝉の誕生はおそらく早いと予測出来る。

 気持ちを新たに切り替えられる新学期が過ぎておよそ一ヶ月。ある程度学校とクラスに慣れて、かろうじてまだ新鮮な気持ちを生徒達が維持できる五月は四季に分類すると春の筈だ。しかし室内の温度計の数値は二十七度を示していて、湿度も不快感を生じさせる程度に高い。ここが自宅でない以上、勝手無言で冷房のスイッチを押すことは刻間時環には出来なかった。


「暑い……」


 シャープペンシルを走らせるにも限界が生じ、我慢していた一言がつい時環の口からこぼれ落ちた。その言葉が届いたのか、はたまた彼自身も時環と同じ気持ちであったのか、救いの冷房スイッチそれも除湿機能のボタンが福沢幸哉によって押される。彼が片手に持っていたお盆は机の上に顔を預けている時環の目の前に下ろされた。


「はいよ、アイスコーヒーレモン入り。宿題なんて一日で終わらせろ! 寝るのは夜になってからだ」

「無茶言うな幸哉さん……。この量を一日とか無理に決まってるだろ。しおりのタイトルなんか『ゴールデンウィークの敵』だぞ。あー……こんな金にならない宿題じゃなくてバイトがしたい」