きっかけを相手の方から与えられてしまい、これを逃せば自らタイミングを掴み直すことは難しくなるだろう。さっきのは冗談だったと、直ぐに笑い飛ばせるのなら別だが。


 本来の目的を達するために来たことを忘れてはならない。トキワは五年前のあの日を思い浮かべ、おそらくこの先も忘れることがないだろう消えない苦しみを懐かしむ。小さく開いた口から静かに声を発した。


「あの日、助けてくれてありがとうございました。申請、通ったんです」


 その報告を耳にして、ようやく幸哉も顔を上げる。ここから一歩、新しい道をやり直すための土俵を手にしたトキワは、立ち上がって幸哉を真っ直ぐに見た。


 養子の申請に五年もかかるとは想像以上であったが、それだけの猶予があったにもかかわらず、気持ちに変化がなかったのであればこの先も彼らは大丈夫だろう。

 里親じゃない本当の親として。本当の息子として。本当の家族として。



「改めまして、刻間時環です」



 出来上がった幸哉のラテアートは、幸せそうに笑っている三匹の猫が描かれていた。一匹は大きく、二匹目は少し小さく、三匹目は最も小さい子猫。

 不慣れな故による仕上がりだが、それはまるで仲睦まじい家族のようなアートだった。