「確かにお前の今の生活は、二人がいるから成り立っている。二人の好意があるからこそ、お前は幸せに暮らせているんだろう。でも、その幸せを手にするための道を開けたのは間違いなくお前自身だ。お前の意志があったから、旅行記はお前に力を貸した。当たり前のことじゃない……でも、成し遂げた成果だと思えば、当たり前の日常だと思ってもいいだろう。お前はもう――」
口に出そうとして幸哉はやめた。この先の言葉はトキワ本人から聞きたい。おそらく直ぐに教えてくれるだろう。
「いや、なんでもない」
半ば誤魔化すように、最近趣味で始めたラテアートを作り始めた。ある程度ミルクの泡立てに慣れてくればメニューに加えたい遊び心の一品だ。すっかりケーキを食べ終えたトキワが頬杖をついて疑わしい目を向けている。
「……幸哉さんさ、客のことを喋っていいのかよ」
「駄目に決まってんだろ。昨日までならお前にも話さなかった。でも、もういいかなって」
キャラメル色のエスプレッソの上にゆっくりとミルクが注がれる。順調に猫を描いていく幸哉は顔を上げもせずに続けた。
「今日来るなんて、突然予約みたいな伝言を刻間さんにを頼んで、何か言いたいことがあるんじゃないか?」