唐突に幸哉が始めた話の意図を、トキワは汲み取った。幸哉はトキワが口に出した言葉を否定し、間違いだと指摘している。
旅行記を体験したお前なら分かるだろ? 穏やかな笑みを浮かべながらトキワを見つめる幸哉の目は、そう告げていた。
トキワは俯いて、時間に少しの沈黙を生じさせた。答えは既に出ていて、それが正解だと自信を持つために考え直す。どうやら回答に変化はなさそうだ。
「……思わない」
「どうして?」
「旅行記を使ったからって、未来を変えられるわけじゃない」
一度体験したからこそトキワは分かる。旅行記は過去に戻れるが、過去からやり直せるものではない。トキワが過去に戻ってもその時間軸のトキワは存在して、時間が経てば元の時間に戻ってしまう。
過去に戻れる時間には限りがあり、未来を変えるためには限られた時間で行動する必要がある。何も出来なければ、失敗すれば、未来は何も変わらない。
「そうだ。旅行記なんて、ただチャンスを与えるだけの物に過ぎない。そのチャンスをどうするかはその人次第だ。刻間さんの今の幸せは旅行記を薦めた父さんのおかげでもなければ旅行記のおかげでもない。旅行記を使うと決めて、未来を変えるために過去に戻って行動した、あの人自身が自分の力で手にした物」
誰かに与えられた物ではない。