「普通だよ。普通に朝起きて、普通に朝ご飯を食べて、普通に学校へ行って、普通に勉強して、普通に友達と遊んだり給食を食べたり、何も不自由はない。ホント、怖いくらいに」

「そっか……」

「昔の俺の環境からもそうだけど、普通を手にすることが一番難しくて、一番幸せなことなんだよな。父さんも母さんも何も言わないけどさ、俺の今の暮らしは二人の好意によって成り立っているわけじゃん。当たり前のことだと思ってはいけない。分かっているけど、この生活に慣れてくると時々忘れそうになる」

「いいじゃないか、時々忘れるくらい。当たり前だと思えるくらい幸せだって、たまには親に見せてみろよ。その方が親は安心するし、お前を引き取って良かったって、心からそう思える」

「どうだか」

「少なくとも刻間さん達はそういう人だよ」


 施設に入れられたトキワのその後を幸哉が知っているのも、トキワが時折この店を訪れるのも、全てトキワが刻間夫婦によって引き取られたからだ。

 家族として上手くいっていないわけでないことは、トキワや刻間の話から幸哉は容易に想像出来た。上手くいっているからこそトキワには不安が生じている。里親という壁は距離を感じるものであるが、壁があるからこそ後悔という感情を抱いたとき取り返しがつく。