父親が自身の言葉を信じてくれないとは思っていない。だが一瞬でも疑いの目を向けられてしまったことが、まだ自分は時計を扱うに信用を得られていないのだと実感し、追いかける背中がより遠くなったように思えた。隠しきれていない不機嫌と苦しみが入り交じった声は、しっかりと斗夢にも届いている。
「そして余りは持って帰って貰う」
「うっ……」
「一日分のデザート経費はいくらだったか――」
「たまにはいいだろっ、常連さんに少しサービスするくらい!」
「はいはい。勝手な過剰サービスで赤字経営にだけはしないでおくれ」
「わーってるよ」
言われなくとも、時計の収入だけでは食べていけないことくらい知っている。我が家の現実を幸哉はしっかりと見据えている。
休息はもう終わりのようで、斗夢は新聞を閉じて二階への階段を上っていった。夜は一階で作業をすることも多いが、本来営業中の昼間は基本的に自室で時計を作っている。