普段は二、三人くらいの客が入る休日の午後、時計店は臨時休業の札を掲げていた。コーヒーが挽かれる音を背景に、幸哉は新作ケーキの仕上げ、クリーム絞りに取り組んでいる。生クリームと思われし白い部分は全てヨーグルトで作られたオリジナルのヨーグルトショートケーキだ。新メニューにこそと考えてはいるものの、今作っているこれは特定の相手に向けての贈り物。


「あれからもう五年、か。時間が経つのは早いな」

「旅行祈で盗み見でもしたのか?」


 思わぬ父からの言いがかりに、幸哉は手元を狂わせかけた。


「馬鹿、んなことするか。俺は他人の過去を無許可で探る趣味はない。易々とそれをしてはいけないって、言い聞かせて育てたのは父さんだろ」

「なら、なんで急に休みにした。まるで未来を知っているみたいじゃないか」


 食欲をそそらせる香りを放つコーヒーを片手にカウンター席に戻った斗夢は、幸哉とコミュニケーションを交わしながら身体の方向と視線の先を手に取った新聞へと注ぎ直す。

 幸哉は過剰に飛び出てしまったクリームをフォークで取り除き、整えながら静かに口を開いた。


「……別に。刻間さんが朝、なんか落ち着かない様子だったからもしかしてと思っただけ。違っていても別にいいんだよ。今日来るってアイツ言ってたし、試食兼おやつとして出すだけだ」