結局少年は言葉に表すよりも先に行動で示した。孤独な空間で長い時間を過ごして、ようやく自分が必要とする誰かに出会えた安心感と、必死に縋り付いて心の内を訴える想いが幸哉の服を固く掴んで離さない。その存在がどこかに行かないよう、引き止めているようにも見える。

 上目遣いで何かを訴え、それを汲み取ってほしいのであろう期待に応えたくはあるが、残念ながら心を読み取る力は持ち合わせておらず、想像で済ませるわけにもいかない以上目を背けさせてはならない。


「どうした?」


 時間は待ってくれなくても、自分達だけは待ってあげる。

 正義を志す大人でないが、人としての心を忘れた大人から一人の命に小さな手を差し伸べることくらい至って普通のことだ。


 小さな命が救いを求めるならば。

 自分に出来ることがあるのであれば。


「ああ……」


 その可能な限りで彼を助けよう。


「助けるよ」


 旅行記で時を超え、手にする新たな現実が、彼にとって幸福で満たされる未来でありますように。