――カランコロン。


 滅多に人が来ない時間帯、来客を告げるベルが鳴る。

 思っていたよりも早かったという思いと同じくらい、全然不思議なことではない……むしろ普通、当然だと、福沢幸哉と福沢斗夢は感じた。

 少年が出て行った後も扉から目を背けなかったのは、直ぐに少年は戻ってくる、この時間に戻ってくると想定していたからだ。


「おかえり」


 少年は息を切らしていた。整えるまでにはまだ少し時間がかかる。幸哉の言葉に返事を返せそうにはない。

 営業時間を気にして走ってきたのか、そんなに急がなくても何時であろうと入れてあげるのに。近寄って腰を降ろし、少年の背中を優しく摩りながらそう言おうとして幸哉はやめた。この子供がそんなことを気にするとは思えない。そんな些細な不安よりももっと大きな不安を抱えているのだから、彼が急いでいたのはその不安に対してだ。

 口をパクパクと動かした少年の声は音になっていなかった。幸哉は急かすことをせず、声が聞こえてくるのをジッと待った。