◇◇◇◇◇
「――本当に送って行かなくていいのか?」
「……うん」
「でもなぁ……」
幸哉が危惧しているのは、何も道中の道だけではない。道よりも危険が確定している家の方をそれ以上に心配している。
どうする? 帰していいと思う? 警察に言った方がいいんじゃ……。
小声で斗夢に相談した。一人で帰ると言っている以上、悩める時間は少ない。
息子に結論を託された斗夢は僅か数秒ほど悩んでから答えを出した。
「トキワくん、だったかな?」
引き出しの中から一つの藍色の箱を取り出した。その色が示す中身を斗夢は惜しげもなく少年に差し出す。
「これを君にあげよう」
驚いたのは幸哉だ。少年自身はそれがどういうものなのか、正確な意味では分かっていない。自分の知っている、腕に付けるタイプのものではないそれを不思議そうに見つめていた。
「時計?」
「ああ、そうだ。君が生きている時間を、電池という命が続く限り刻み込んでくれる奇跡の時計。この懐中時計はきっと、一度だけ君を助けるチャンスを与えてくれるよ。君さえよければ、これを貰ってくれないかな?」
知らない人から物を貰ってはいけない。それによって生じる危険を少年は教えて貰えていなかった。