「よーしよーし、食いたいだけ好きなだけ食いな! 金はとらないから安心しろ!」
頭に触れても嫌がられない程度に心は開いてくれていた。餌付けをして悪い事を企む大人になった気分で居心地は少しばかり悪い。勿論犯罪なんて欠片も考えていない。
「なあ、家ではこういうの、食べさせてもらえないのか?」
声色は優しく、笑みは絶やさず。
餌付けの効果は覿面で、手を止めて少しの間黙り込んだ少年は小さく声を発した。
「お母さん、あまり帰ってこないから……」
大人の眉間に皺を寄せさせるには十分な言葉だった。誤解の元となってしまう顔を見られる前に幸哉は直ぐに取り繕う。
「普段は何を食べてる? ご飯くらいは置いて行ってるだろ?」
「……ううん。適当にあるものを食べなさいって。知らないうちに野菜とか入ってたりするから……あと、お金置いて行ってくれるときは、何か買って食べておけって……今日も朝起きたら、ご飯と一緒に置いてあって……それで、出てきた……」
穴が空いていないか心配になるショートパンツから皺だらけになった千円札が取り出される。子供からしてみれば大金であるその金を無防備にポケットの中に入れて、それを他人の前で取り出すなど不用心なこと極まりない。この子はそういったことを教えてくれる大人に恵まれなかった。
命綱であるそれを差し出しているように見える少年の手を、幸哉は両手で包み込んだ。