「してない。電話番号を聞いたら知らないって言うし。でもまあ暗くなる前にか帰せば大丈夫だろ。あんな派手にお腹の音を何度も鳴らされなければ俺だって寄っていけなんて言わねーよ」


 自分が作ったケーキを美味しそうに食べてくれるのは悪い気がしない。子供らしい食べ方は綺麗とは言い難いが、フォークを置いて満足そうにオレンジジュースを流し込む姿を見て、幸哉の口元から笑みが零れ落ちた。

 ただ、気になるのは少年の服装だ。家が貧乏なのだろうか。シャツはすっかりヨレきっていて、目立たないとは言えない汚れがある。早々に洗濯をすれば少なくとも薄まったであろうシミはまともに洗われていないことを身を持って表していて、何日も続けて着ていることが見てとれた。ひょっとしたらお風呂にも入っていないのではないか。

 斗夢も同じことを考えていたが、触れない方がいいと判断して口には出さないでいた。父親が少年に問いかける気配がないと感じとった幸哉は、よその家庭事情に口を出すわけにはいかないと思いながらも少年の家庭環境が自分の想像する最悪なものではないかと気にかかり、判断が可能となる材料を集めにかかった。


「美味かった?」


 またしても頷くだけ。子供は見知らぬ年上には警戒心を抱く。


「そっか……。ちなみにガトーショコラにクレープ、真っ赤な苺のショートケーキなんてものもあるぞ?」

「!」