ちょっとした休憩や、お客を持てなすときに使われるソファーとテーブルを利用して、店主の福沢斗夢が小道具で時計に命を吹き込む。
その後ろ姿は嫌いどころかむしろ逆だが、時間が時間だ。身体を壊しては元も子もないと、今だけはその背中を見せるのをやめて早くベッドで休んで欲しいと幸哉は思う。そんな心情など知りもしない斗夢は、振り返ることも手を止めることもせず、視線も時計から離さない。
「もう少しで機器が完成しそうなんだ。キリが悪いと明日はまた一からになる……お前は早く寝なさい。明日も学校だろ」
「創立記念でお休み。さっきまで熟睡してたから眠気も覚めた」
幸哉は横を通り、キッチンにある冷蔵庫から麦茶を取り出すと勢いよくコップで喉に通した。
どうせロクに休憩もとっていないのだろう。自分の喉が潤った後、父親の分も用意する。コーヒーカップに注ぎ、電子レンジで程よく温めた茶を、うっかり腕に当てて倒されないようテーブル上でも少し離れた位置に置いた。すっかり冷めた頃に口を付けるだろうと予想していれば、意外にも早くそのカップは手にとられる。
「二丁目のじいさんは、数字が大きく表示されている時計が欲しいらしい」
「ウチの店はそういう普通の時計が売りなわけじゃないだろ。来る店を間違えてる」
「ああ。だが、普通の時計も売っている。針で存在を主張し、消え行く一秒一秒を告げてくれる、命を感じられる時計達……」
まだ針を動かす準備が整っていない我が子の一つを、斗夢は優しく撫でた。