完全に悪者扱いだ。人気のない場所とはいえ、助けを求める子供の声だと勘違いをした大人がやってくるかもしれない。どれだけ弁明しても相手からすれば言い訳にしか聞こえないだろう。面倒なことになる香り、冤罪の恐怖が生じて焦りが込みあがる。そうでなくとも子供の鳴き声など慌てるものだ。
「あのな? こんなこと言うのもあれだが、世の中そう甘くないんだよ。星に書いたお願い事が叶えられるのはクリスマスにやってくる親サンタくらいなの、分かる? 親サンタだってな、名前と住処を書いただけの星の紙では願い事が分からなくて無効扱い。そもそもお前、泣いてる割にはあの人の言ったこと書けてないからな? ナイスだけど、俺のことを責めるなら書けてから言えよ、いや書いちゃ駄目だけども!」
奪い取って握りしめたことにより、皺だらけになってしまった星の紙には「ときわ」と子供らしい汚い字で書かれた名前と「二丁目アメがおちるいえ」と書かれた住所と言えない住所が書かれている。この年では自分の住所を把握していないのだろう。ある意味安全だ。
名前をフルネームで書けないことには疑問を持ったが、名前を書けと言われて名字を書けと言われたわけではないから、おそらく名前だけを書いた。そう思うことにした。
「とりあえず泣き止め!」
対子供用のオモチャを持っていない幸哉は、スーパーの袋の中から先ほど買ったばかりのペットボトルのオレンジジュースを取り出した。新品の証と言える蓋を開くときのパキッと鳴る音が、泣き声に負けず耳に入る。
自分用のおやつに買ったつもりだったが、小さな子供にあげないほど大人気なくはない。