少し説教臭く柄の悪そうな大きな声をあげれば、か弱い宗教女性は逃げるように去って行く。漫画の世界で聞きそうな捨て台詞を残して。


「罰当たり……! アンタなんか、地獄に落ちる運命よ!」


 ――落とせるもんなら落としてみやがれ。


 こちとら神様どころか天国も地獄も信じていない夢のない人間だ。先程独り言で神様とぼやいたのはあくまで空想上の神様である。

 女性は逃げる際に靴の片方を落としていったが、それを拾って追いかける真似はしなかった。相手は頭のおかしい信者だ。教えてやろうと一言呼び止めたことで、変に絡まれたら堪ったものじゃない。あれが奴らの手口かもしれないのだから。


「なんで片足が脱げてることに気付かないかね……」

「あ……」

「ん?」


 隣で小刻みに震えている小さな生き物の存在を、幸哉はすっかり忘れてしまっていた。先程の幸哉の印象が少年の中で定着してしまったらしく、自分よりも背の高い幸哉を完全に怖い人に位置づけてしまっている。


「ああ、悪い悪い。えっと、大丈夫か? って言っても分かんないよな。騙されてたつもりはないんだし」

「……でよ……」

「なに?」

「ジャマ……しないでよ……あの人の言うとおりにしていたら、おかーさんが帰ってきてくれるのに……! うわぁぁぁぁんんん!!」


 堪えきれなくなった涙が少年の眼からポロポロとこぼれ落ちた。我慢することをやめたのか、大声を上げて泣き出す。