「言ったよな? 危ない真似はするなって。絶対にしないって言ったくせに、自分が嘘をついたことをさぞ実感したことだろう。反省は?」

「してますしてます! めっちゃしてる!」

「怪しい」


 危ないことをするなと念を押していたのは、未来で旅行機を使って身代わりになろうとしたからだろう。未来を変えようとした時環の行動は、幸哉にとっては変わらない、同じ時間軸に立つための行いに過ぎなかった。


「本当だよ! でも、やっぱり反省はしていない……かな?」


 時計店の扉が開く。ドアベルが音を鳴らした。


「後悔はしていない」


 彼女と恩人の思い出も記されているであろうあのノートに、この店の住所を書いたこと。

 旅行記で思い出を振り返った彼女にあの行き先は標しとなっただろう。

 彼に日常が戻った頃には実習の期間が終わっていた。怪我で実習を終えられなかった彼は、教師の道を諦めた。教師と生徒という繋がりを失った二人には、再び出会うきっかけが必要だった。


「お久しぶりです、福沢先生」


 立ち入ることが許されない今、空気となろう。制服を返し、許しを請うのはその後でもいい。

 恩人の笑顔を見守りながら、どうやら彼が幸せになる未来は遠くなさそうだと時環は目を閉じた。


 福沢時計店の時計達が、変わらず針を鳴らしている。



―了―