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瞼を持ち上げるよりも先に、聴覚が働いた。
聞き慣れたいくつもの時計の音。そして直ぐに近くから聞こえる、時計に命を吹き込む音。
「おかえり」
時環の帰還を待っていた幸哉は小道具で細かな部品を埋め込み、時計の制作に勤しんでいた。父親の手を見て培ったその腕はすっかり手慣れたものとなっていて、その姿はもう素人の趣味の世界とは十分に遠退いているが、目指す人物の背中がまだ見えない限り彼は自分の持つ技量に納得をしない。
一度手を止めて、この時間に戻ってきた知人に手を伸ばした。力は加減して、覚醒していいないだろう頭を起こしにかかる。額を指で弾いた。
「この大馬鹿野郎」
「イテッ」
「勝手に人の部屋のものを漁りやがって。それもじっくり怒りたいところだが、それより……」
加減の調整をミスして、思っていたよりも大きく音が響いた。そういうこともあるだろう。反省すべきは時環なのだから、多少の痛みは受け止めるべきだ。