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地の感覚が少しず消えていくのを感じながら、時環は自室のクローゼットに身体を潜らせた。
何年も放置しているこの奥は、大学生になった今も手を伸ばした記憶がない。この時間軸自分にとって見覚えの無い衣服を仕舞ったところで、気付かれることのない隠し場所だ。
「ふう……」
特有の香りと埃っぽさから解放され、視界がかすかにぼやける。
「戻るんだ……」
借りた自分の鞄は元の位置に。自分自身はどこにいようと構わないだろうが、来たときと同じ、布団の上に横たわる。
今思えば、過去に渡ってくるのは必然の事だったのではないか。
自ら道を切り開いたのでなく、用意されていた時間軸を渡っただけ。
未来は変えられなかった。変わらなかった。
それでも、最後に記したあのメッセージに彼女が気付いているのだとすれば。
再び過去に、向き合おうと思ったのであれば。
「奇跡の時計は、あれを書かせるために俺をここへ連れてきた……」
目の異常を錯覚してしまう、人によれば酔ってしまう予兆から背けるために目を閉じた。
部屋の空気が心地の良いコーヒーの香りに変わったのは、どのくらいの時間が過ぎたのかわからない、いつの間にか意識を失って取り戻してからのことだった。