「だから、大丈夫だ。あとどれくらい?」
「えっと……どれくらいだろう」
時環は旅行機を開いた。十二を指していた反時計回りに回る針は、もう一を指している。制作主には残りのリミットが分かる。
「一時間、いや下手したら三十分くらいか。俺の腕もどうせまだ素人だろうし」
「手厳しいね」
「事実だ。制服はこの時間に置いて行けよ。大事な思い出と数年間もサヨナラするなんて御免だからな」
「勝手に借りてごめんなさい」
いつでも戻って良いように、制服は脱いでおいた方がいいだろう。元々着ていた服は鞄の中に入れている。洗面所で着替えて、借りた服は丁寧に畳んだ。
「斗夢さんは俺が幸哉さんの部屋に入っても怒らずに許してくれたけど、幸哉さんは怒ってる?」
「部屋に入ったことに?」
「それと、旅行機を使ったことと制服を借りたこと」
「怒ってないよ。でも、怒ってる」
「どっちだよ」
「お前が旅行機を使って、俺を庇おうとしたことに怒っている」
洗面所から出ると、幸哉はベッドの外に足を出して座っていた。互いに身体ごと向き合い、視線を合わせる。時環は深々と頭を下げて、持っていた制服を差し出した。
「許してください」
「許さない」
置いて行けと言った制服を、幸哉は受け取らなかった。
反対を押し切って自分の我が儘で行動したのだ。分かっていたことだが、面と向かって言われた拒絶の言葉は時環に刺さった。
「でも、怒るのは俺の役目じゃない」