「今の幸哉さんは、旅行機で渡ってきた幸哉さん? それとも戻ってきた、この時間軸にいる本来の幸哉さん?」
「どうだろう……。前者かもしれないし、後者かもしれない。確実に言えるのは、俺はどこかの時間に帰ることはなくて、帰ってきた気もしない。未来を変えようと旅行機を使って、お前を助けて怪我をした。今この場にいる俺が、この時間軸の本当の俺だ」
「それって……」
渡ってきた過去が、そのまま現実になってしまった。過去の自分に精神を一時的に移っているのではなく、過去の自分自身になってしまった。時環はもう、未来に帰れないのか。
「帰れるよ」
時環の思考を想像した幸哉が、そう告げた。
「お前に渡ってきた感覚があるのなら、嫌でも未来に帰る。お前が行った全ては、この時間軸にいた時環には関係ない」
時環が旅行機を使った意味、その目的を幸哉は察していた。そしてそれを未来の自分が許すはずがなく、時環が反対を押し切って過去へ来たことも。そんな時環が、旅行機のことを知らないことも。
「時間軸というのはあり得たかもしれない無数の未来、数なんて分からないくらいにいくつもある。お前がこの軸に来た瞬間、この軸にいた時環は違う時間軸を渡って、再びこの軸へ戻ってくるんだ。普通に目が覚めて、普通に一日を過ごして、普通にまた夜を眠って、ある日時計店に来たら、何故か怪我をしている俺の姿が目に入る。それがこの時間軸の時環。お前が未来に帰ったあと、いきなり日が経っていて驚いたりもしない。帰ってきた気なんてしないからな」
今の幸哉のように。
違う時間軸を渡ってきたなどと、原理を分かっている者もそれを実感することは出来ない。個々の意識は一分も戻ることなく、未来へ飛ぶことなく今を生きている。
今、ここにいる時環もそうだ。