時環は幸哉に覆い被さろうとした。だがどうしてだろう、守りたい筈の相手に、時環は包み込まれる。

 激しい音を鳴らして崩れ落ちた鉄は、背中を地に打ち付けた時環の上には降り注がなかった。身体を盾にした彼の上へ落ちた。


 頭と背中と足に受けた痛みが意識を奪いにかかっている。かろうじてつなぎ止めているも、激痛により顔を歪ませる。

 自分に起こった事態が、目の前で起こっている状況を、時環は受け入れたくなかった。


「嘘……だ……」


 遠くで鳴る救急車の音に耳を塞ぎたい。

 泣き叫ぶ少女の声を聞いて、自分は何のためにここに来たのだろうと、無力感に襲われる。


 ――変えられなかった? 未来を。


「なんで、俺は……」 


 旅行機を使って、未来が変わらないんじゃ意味がない。

 自分は何がしたかった?

 助けたかった。

 助けられなかった。


「先生! 嫌だ……嫌だよ……」


 死ぬわけじゃない。

 でも、もし時環が介入したことで未来が変わってしまっていたら。

 幸哉が生きている未来が、絵茉を助けた未来だったら。

 時環は幸哉を――


「幸哉さん?」


 力を失った手が、座り込んだまま動けないでいる時環の手に触れた。倒れている幸哉が、細く目を開ける。