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 手に汗を握り、心臓が鼓動打つのは、全速力で走る上での代償か、向かう先にいる人との対面を控えた緊張か、最悪の未来を想定しての恐怖か分からない。

 制服のおかげと自身の外見的年齢のおかげで止められることなく学内の敷地に入り、目にした校舎の時計の針は想像よりも進んでいた。

 休憩をする暇もなく運動場へ向かう。


 間に合え。

 間に合え。

 間に合ってくれ!


「幸哉さん!」


 体育祭の準備は既に始まっていた。絵茉と共にいる幸哉の目が驚きに満ち溢れる。

 どうしてここにいるのか、どうしてその制服を着ているのか、考えている場合ではない。幸哉はかつて、絵茉をこの場から離そうとした。そして間に合わなかった。


 つまりは、もう――





 佇んでいた影が揺らめいた。

 足を止めなかった時環は、考えるよりも先に身体が動いていた。絵茉の手首を掴み、幸哉の目の前から無理やり引き離す。

 幸哉をその場から離している時間はない。けれど諦めない。


「え……?」