「じゃ、お父さんによろしく」

「ありがとうございましたー」


 扉が完全に閉まると、自然と肩の力も抜ける。その後の幸哉の行動は早かった。


「さて……」


 モーニングの時間が終わるにはまだまだ時間があるが、卵の完売までには時間がない。スーパーの開店は九時から。昨日の内に完売していない限り今直ぐに出れば間に合うだろう。

 そのためにも店番の存在は必要で、幸哉は斗夢を叩き起こして自分は優雅に早朝から卵の戦争へと向かった。不戦敗であったとき、無駄足にならないようにと斗夢から買い物リストを渡されたが、どうせついでだ。手で持てる量であれば全く気にしない。


「例え特価洗剤、アルコール、割れたら粉になる限定ポテトチップスや食パンなんて、上に物が置けない嵩張る物を頼まれても気にしませんよ。こちとら卵を持ってるってこと、忘れてるだろ……」


 川辺を歩いている最中、液体による重量とクーポンで購入した米一袋の重さに耐えきれず、一旦荷物を草の上に降ろした。食料品を地面に置くのは幾分抵抗があったが、人間には限界というものが備わっている。


「ふう……」


 どうせ動かないのであれば、少し休憩するのも同じだろう。自分自身も腰を降ろし、川の流れる水の音と長閑な風を心地よく楽しんだ。


「時間は巻き戻せない。それが普通で、その理をねじ曲げることは本来許されない。買い物のメモを貰う前に戻れば、きっと神様は怒るだろうな」


 時間の確認に開けた懐中時計は、まもなくモーニングの終わりを指そうとしている。この時計では過去を変えるには不十分であり、そもそもそんな気は毛頭ない。