斗夢は、無理に時環を信じようとしてくれている。

 幸哉にとって、他人である時環を。

 ならば時環は、自分が幸哉に対して抱いている感情を打ち明けることで、彼の信頼を得なくてはならない。信じようとしてくれている彼が安心できるように。


「はい。俺は幸哉さんを助けたい……助けに行きます」


 身の周辺に平穏が差し込んだときからずっと。


「斗夢さんと、あの人は俺の――恩人ですから」


 何度だって言いたい。

 今となっては照れくさくなってしまっているが、気持ちはいつも内に秘めている。


 ――ありがとう。





 時環は二階に上がり、何年ぶりかの幸哉の部屋に足を踏み入れた。

 まるで趣味がなさそうな、片付いた部屋だ。部屋の中心にアナログ時計が置いているだけのミニテーブルがあり、ベッドとクローゼット、時計を作る材料や時計そのものが入っているのだろう棚が一つあるくらい。


 部屋主の父親に許しを得たとはいえ、本当の意味で許しを得ていない時環は罪悪感を抱きながらもクローゼットに近付いた。開けて、ハンガーに掛けられた衣服の中から目的の物を探す。

 幸哉は思い出を残す主義だと言っていた。そしてそれは、直ぐに取り出せる位置にあると。

 ハンガーに掛けてあると。


「あった……」


 時環が手に取った物、それは絵茉が通っていた中学の男子制服。幸哉の母校の制服だ。


「ごめん。洗って返すから、ちょっと借りるよ」


 独り言として呟いたそれを、この場にいない本人に向かって呟いた。

 小さく畳んで鞄の奥に入れて、時環は足を急いだ。