先のことを考えている余裕など無いと、時環は思考を止めて立ち上がった。

 制服に着替えてスクールバッグを手に持つ。

 学校に行ってくると嘘をつき、家を出た。嘘に真実を混ぜれば信憑性が増すのだ。





 ◇◇◇◇◇


 目立った変化が見当たらない、にもかかわらず懐かしさが混み上がる通い慣れた道を突き進み、時計店の扉を開けた。いつも出迎えてくれる幸哉の姿はなく、珍しく斗夢が一人でカウンターに立っている。


「斗夢さん! 幸哉さんは?」


 店に入って開口一番に告げた一言。注文でないそれは、またしても迷惑な客な自覚はある。


「時環くん? 幸哉なら今日は教育実習で学校だが……どうかしたのかい?」

「あ……の……」


 息が整っていないまま、時環は頭を回転させて声を出した。言い訳を考えてくるのを忘れていた。


「ここで働かせて貰った最後に日に……幸哉さんの部屋に、忘れ物をして……その……」


 無茶な言い分だ。そんな物、幸哉が見つけている。

 でも、もう引き下がれない。


「幸哉さんの部屋を、見せて貰えませんか!?」


 ――お願いします。


 深く頭を下げて、時環は懇願した。幸哉と時環は兄弟ではなく他人だ。まともな人間ならば、本人の許可無く息子の部屋へ足を踏み入れることを他人に許したりしない。

 失敗だ。


「時環くん」