「ここは?」


 身体が軽く、背丈に違和感を感じた。小さな身体を起こして辺りを見渡してみると、自室のベッドの上で眠っていたことが分かる。座高も低く、変わらず毎日見ている筈の景色がほんのりと違うものに感じた。

 壁には時計が掛けられていて、机の上にはデジタル時計が置かれている。時間を確認するにはそちらに目を向ける方が早いが、ポケットの中から懐中時計を取り出す動作は借りた一日の間に染みついていて、ズボンのポケットに手を入れた。


 ポケットの中には未来から共にやってきた旅行機が収まっている。驚いたりはしない。初めて旅行記を使ったあの頃も、時計と一緒だったのだ。

 中を開けて日付を確認した。

 旅行記を使ったときに見た日付、事故が起こった日だと分かる。一見普通の時計と変わりがないが、仕事を放棄した秒針が反時計回りに一瞬だけ動いた。

 壊れている? 否、違う。昔は気付かなかったが、これは。


「元の時間に戻るまでの、カウントダウンか」


 おそらくそうだろう。それを示すために、旅行キは共に時間を越えるのだ。

 幸哉も旅行祈を使った際、何度か時計を確認していた。あれは授業が始まる時間を気に掛けていただけではなく、旅行祈のリミットも見ていた。


 旅行記も同じなのか、絵茉が秒針の仕組みに気付いていたのか時環は知らない。

 ともかくこの旅行機は秒針が十二を指したとき、未来に帰るのだろう。帰った後の、この時間は――


「時間がない」