何故旅行機だと気付いたのか、これについても納得が出来る。
返答は返ってこなかった。それが答え、つまりはそういうことだ。
「なら、なおさら行かなきゃ駄目だ」
「そんな必要ない!」
「そうだとしても、行きたいんだ! 誰かのために行動したいって気持ちもある。でもそれ以上に……そうしたいって思う、俺自身のために行きたい」
声を荒げられたって揺るがない。苦しくても、辛くても、自分が選んで決めたこと。迷いがなければ他人の言葉に耳を貸そうという気は起こらない。
「駄目。もう早く帰れ。今朝貸した時計だけ置いていけ」
「旅行機を売ってくれるまで帰らない」
「却下。返しなさい……何でそこまでして旅行機にこだわる。お前には何のメリットもないだろう」
「なんで……」
――こだわり。
その単語から時環は思い出す。
『こだわりのチャームが自作の証』
緑の本のチャームが付けられた旅行記。
流れ星のチャームが付けられた旅行祈。
――なら、旅行機は……。
ポケットから、借りた時計を取り出した。
「歯車?」
旅行祈で最後に見た時計と借りた時計には、同じ歯車のチャームが付けられている。
幸哉が何度も返せと強く出る理由が分かった。悟られるわけにはいかない、時環が求める代物を彼は誤って渡してしまっていた。
歯車の凹凸が手の平に痛みを与えるほどに、時環は時計をキツく握りしめた。
「! 駄目だ、時環!」
これで最後にする。だから、最後の一回だけ。旅行記と旅行祈のように。
――力を貸して欲しい。
思えば、旅行機を使うのは初めてだ。
旅行記は肉体を過去に飛ばし、過去をやり直すことが出来る。
旅行祈は精神を過去に飛ばし、過去を見るだけ
旅行機は精神を過去に飛ばし、過去の自分に憑依し、自ら過去をやり直すことが出来る。
未来を、変えてみせる。