金縛りに遭っているに近い感覚、意識だけが一足先に浮上した。力いっぱいに頭が送る信号が遅れて届き、ようやく身体に自由が戻る。


「――っはあ! 戻ってきた……」


 床で寝転けていると思っていた身体は、カウンター席で腕を枕にしてテーブル上に預けていた。起きて早々に気にかかったのは、旅行祈で見たあの日記帳……。


「何を見たんだ?」


 シンクの上を机代わりに、幸哉は肘をついてコーヒーを飲んでいた。時環の帰還をカウンターの前でずっと待っていた。倒れた時環を座らせたのは幸哉だろうが、身体が楽なソファーではなくカウンターの固い椅子なのは彼の怒りによるものか。


「ごめん。人の過去を覗き見して……旅行祈の費用はいつか必ず――」

「それで? 変えられもしないものを見て、お前はこれからどうするつもりなんだ」


 幸哉の怒りは最もだ。実際に時環は、確かにこれは見るだけ無駄だったと痛感した。相手を不快にさせるだけの行為だった。

 何もしないのなら、だ。


「旅行機を売って欲しい」


 過去を見て、戻ってきた頃には決めていた。発音だけなら旅行祈や旅行記と区別がつかないというのに、幸哉は時環の言う旅行キが旅行機を指していると気付いていた。


「駄目。危ない真似をするつもりなら絶対に駄目だ」

「しない」

「する」

「絶対にしない」

「絶対にする」

「何で分かるの」


 言いずらそうに、幸哉は目を反らす。


「もしかして、俺が旅行機を使う未来を知ってんの?」