迷いはしなかった。
自宅に帰って、父に頼み事をしようと口を開けて、幸哉はやめた。息子だからといってタダで力を宿してもらおうなどと考えてはならない。
効果はおろか、安全性も保証が出来ない代物を幸哉は作り始めた。普段は父親に早く寝ろと急かす側であったが、父親に注意されるほど目を血走らせながら休憩もせず制作に集中した。
旅行祈や旅行記と違い、旅行機の制作は初めてだった。歯車のチャームを付けて、父親の保証もなしに、出来上がった頼みの綱で崖を渡る。
成功していたとしても、効果は長くは続かないだろう。短い時間で未来を変える。
時を渡って、直ぐに絵茉を探した。
始めに図書館に向かったが、そこに絵茉の姿はなかった。ならば運動場だ。
急いで向かおうとすると見覚えのある顔があった。時環によく似た大学生くらいの男の子。心に余裕があれば彼を目で追っていただろうが、幸哉にはこの先に起きる未来のことで頭がいっぱいだった。
未来を変えるために、絵茉をその場から離そうとした。
鉄は今にも崩れようとして、間に合わない。
自分自身を犠牲にした。
未来は変わった。
だが、絵茉は笑っていなかった。打ち所が悪く徐々に意識が遠ざかる中、完全に手放す最後まで、幸哉の耳には絵茉の泣き叫ぶ声が届いていた。